D2C通販の事業計画 まずは通販の収益構造を考える

D2C通販事業をスタートするにあたり、まずは資金繰り、いわゆる「損益計画」を立てる必要があります。
通販事業は、売上高にばかり注目していると危険な事業です。
商品原価とは別に、広告宣伝費や物流費、人件費の経費がかさむビジネスモデルになっています。
特に、販促費となる広告宣伝費をどんどん使用して新規顧客を獲得していく構造故に、販促費は計画性をもって運用しないと、資金ショートに繋がる危険性があります。
ここでは、D2C通販事業の基本的な収益構造についてまとめていきます。

目次

固定費と変動費

D2C通販の収益構造を検討する際に、このビジネスモデルにおける固定費と変動費にどのようなものがあるかを把握する必要があります。

D2C通販で発生する主な固定費

●人件費

固定費の中で大きな割合を占めてくる、従業員の月給です。
EC通販の事業者の中には、人件費を変動費で考える場合もありますが、月給制の正社員が多い場合は固定費で計算するのが良いと思います。

●広告宣伝費

D2C通販では新規顧客獲得のために必ず必要となってくるプロモーション費用です。

●システム管理費

D2C通販は基本はEC通販を軸としている場合が多いため、システム管理費が発生します。
ECで受注を受けるためには、ネットショップを構築するためのASPサービスを使用することが多いため、このランニングコストが発生します。
また、物流機能をアウトソーシングする場合は、ASPサービスと物流のWMSシステムと連携する必要があるため、その管理費用がランニングコストとして発生します。
さらに、自社の通販に合せてオリジナルでシステム構築をする場合は「システム開発費」も発生してきます。
ECを基軸とするD2C通販は、既存の通販よりもこのシステム管理費のコストが高い傾向があります。
また、利用するASPサービスによっては、金額固定ではなく受注量やサーバー使用料によって累進課金される場合があります。その場合は、固定費で処理するか変動費で処理するかは会計士さんと相談するのをお勧めします。

● 管理費(賃貸料、水道光熱費)

事務所とは別に、在庫を保管する倉庫がある場合は倉庫の賃料も発生します。

D2C通販で発生する主な変動費

●商品原価

商品を仕入れた際に発生する費用です。

●決済手数料

D2C通販は現金支払いではないため、商品購入毎に決済手数料が発生します。
見落としがちなコストですので注意しましょう。

●物流費

商品の在庫管理、出荷に関わる作業費、出荷に必要な資材(伝票や包材、ダンボール等)に必要な費用です。

●送料

物流費に入れる場合もありますが、送料は商品毎に発生し、配送エリア毎に費用も変わるので物流費に入れてしまうよりも、個別の項目で管理したほうがコスト意識が高まります。

● 成果報酬系の広告宣伝費

一般的に広告宣伝費は固定費として捉えます。
しかし、D2C通販の広告は純広告を使用するよりは、リスティング広告やアフィリエイト等のクリック課金型や成果報酬系と言われるタイプの広告を使用します。
この場合、広告宣伝費を固定費にするのか、変動費にするのか…は悩むところです。
より、詳細に利益構造を捉える場合は、この部分は変動費に分類する方が良いと思います。

D2C通販の営業数値の目安

D2C通販で扱う商材や商品原価、売価によって利益率が異なってくるため、これがベスト!という営業数値の目安はないのですが、各項目の割合は次の数字を目指すと良いと考えています(あくまで私の経験値でですが….)。

●営業利益 20%

総合通販、単品通販に関わらず、営業利益は20%を目指していきたいところです。
EC通販は工夫することで利益率を上げやすいビジネスモデルですので、20%を目標にして収益計画を立てていくことをお勧めします。

●広告宣伝費 40%

総合通販と単品通販、扱う商材によって広告宣伝費の回収率(CPOやLTV)が異なるため前後はありますが、基本は売上に対して40%を越えないことが目安となります。

●商品原価 20%

こちらも、化粧品、健康食品、アパレル、雑貨等、扱う商材によって商品原価は異なるのですが、営業利益20%を目指すD2C通販であれば、商品原価は20%を目安にして商品開発を行なってください。

●その他(人件費、物流費、送料、決済手数料、管理費等) 20%

売上から、営業利益、広告宣伝費、商品原価を除いた残りの20%を、その他諸々の経費に当てることを目安にしてください。

D2C通販はどうしても広告宣伝費が必要になるビジネスモデルです。
ここの数字のコントロール(CPOの数字を改善していく)をすることで、他の経費へ予算を割くことも、利益を高くすることもできます。
まずは、この数字をひとつの目安として事業計画を練ってみましょう。

D2C通販の採算構造

D2C通販に限らず通販事業は

新規顧客獲得に先行投資を行い、商品の購入(リピート購入、顧客ロイヤリティの向上)によって利益を回収していくビジネスモデル

です。

多くの場合は、その先行投資(主に広告宣伝費)を1回の商品購入の利益で回収することは難しいため、リピート顧客に引き上げることで複数回購入の利益を出し、それによって先行投資分を回収し、さらに利益へと繋げていく仕組みになります。
D2C通販で採算を取るには、まず次の2点が重要となります。

  • CPOの効率を上げる
  • LTVの数字を上げる

CPOとLTVを中心に、採算構造を理解するための指標を理解しましょう。

CPOとは何か?

CPOとは(cost per order コスト・パー・オーダー)の略で、新規顧客1人を獲得するにあたりどれくらいの費用が発生しているかという指標になります。
D2C通販では、このコストは基本的に広告宣伝費が該当します。
CPOの数値は次の式で計算します。

CPO=投入広告費用÷獲得顧客数

例えば、100万円の広告を投入して200人の新規顧客を獲得した場合は、CPOは5,000円となります。

CPO=1,000,000円÷200人=5,000円

CPO値の分析をすることで、広告の効果測定をすることが可能です。
広告内容の検証と併せて、各出稿先の媒体効率も検証することもできます。
また、分析実績を積むことで自社の目標や目安とするCPO値を割り出すことができ、新規顧客獲得の際の予算立てに活用できるようになります。

見込み新規顧客数=広告投入費用÷平均CPO

例えば、自社の実績から平均CPOが5,000円だった場合、200万円の広告投入によって得られる新規顧客は400人となります。

見込み新規顧客数=2,000,000円÷5,000円=400人

CPO数値の合格値目安は、広告の出稿媒体、取り扱う商材、総合通販系か単品通販系か、トライアルからの2段方式か1回目で本品を購入する方式か、などのビジネスモデルによって異なるため、「コレ」という合格数値はないのですが、媒体別に下記の数値を目安にしておくと良いでしょう。

●紙媒体や放送系媒体(TVCMなど)
 CPO目安≦商品単価(売価)×1.5~2.0
●WEB媒体
 CPO目安≦商品単価(売価)×0.8~1.0

LTVとは何か?

LTVとは(life time value ライフ・タイム・バリュー)の略で「顧客生涯価値」とも言われます。
一人の顧客が取り引きを開始してから終了するまで(顧客ライフサイクル)の間にもたらしてくれる価値の総額
を表す指標になります。
「初回購入から顧客を離脱するまでの期間に得られた累計客単価」と捉えるとわかり易いと思います。
LTVの数値は次の数式で計算します。

LTV=顧客の年間平均取引額(平均購買単価×平均購入回数)×顧客の平均継続年数

例えば、平均客単価が3,000円、離脱までの期間を1年半として、3ヶ月毎にリピート(6回購入)があるとすると、この場合のLTVは27,000円となります。

LVT=3,000円×6回×1.5年=27,000円

LTVの計算式は、粗利で行なったり、利益率や契約率の指数を入れたりなど他にも複数の考え方がありますが、この計算式が一番ベーシックなものになります。
また、取り扱う商品にもよりますが、継続年数は1年とする場合が多くなっています。
LTVもCPOと同じく、扱う商材や販売モデルにより数値が異なってくるので「コレ」という合格数値はないのですが、通販事業は物流や配送などの諸経費がかかるため、あまりに低単価でLTVが低いモデルは通販として継続が厳しくなります。
そのため、LTVは1年で15,000円以上になるような目標を設定を目安にしてください。

●LTV目標数値

 1年で15,000円以上

また、LTVの数値を上げる方法は、次の3点が重要となります。

  • 商品の購入単価を上げる

商品のセット買いや、関連商品の販売のクロスセルによって、購入単価を上げる工夫をします。

  • 商品の購入頻度を上げる

商品のリピート時期に合わせたプロモーションや、定期的なセールなどのお買い得キャンペーンの実施で、購入頻度を上げる工夫をします。

  • 継続期間を伸ばす

商品やサービスの価値を常に見直して、商品を長く愛用して頂き顧客ロイヤリティをを向上してく工夫も大切です。

CPOとLTVを考慮した収益計画を立てる

D2C通販は、新規顧客獲得に先行投資を行い、商品の購入(リピート購入、顧客ロイヤリティの向上)によって利益を回収していくビジネスモデルですので、CPO(新規顧客獲得の先行投資)の経費をLTV(商品のリピート購入による利益)で回収していく仕組みになります。

顧客一人当たりを想定して採算構造を考える

採算構造を理解する際に、まずは「顧客一人当たり」を想定して考えるとわかりやすくなります。
仮に次のような条件にした場合

・商品単価 6,000円
・利益 20%
・CPO 3,500円
・初回購入以降の稼働率は30%から順に毎月低くなっていくと仮定します。
(2回目購入に至る顧客の割合は30%が目安になります)

12か月間で得られる利益の推移は次の表のようになります。

顧客一人当たりの利益推移

稼働率が低くなっていくので、月次の利益は下がっていきますがリピートによる累計利益は次の棒グラフのように増加していきます。

利益累計推移棒グラフ

そして、累計利益によって、CPOの3,500円は9カ月目に回収できる計算になります。

累計利益とCPO損益分岐点

尚、CPOの回収は1年以内を目標に計画を立ててください。
以上のCPOとLTVの関係から、回収リードタイムを短くする方法は下記の2つになります。

●CPOの数値を下げることで回収リードタイムを短くする
●LTVの数値を上げることで回収リードタイムを短くする

事業全体の採算構造を考える

D2C通販をスタートすると、毎月の新規顧客獲得を行なっていくことになります。
仮に、先の条件で、毎月35万円の広告出稿を行なったとすると、毎月100人の新規顧客が獲得できます。

新規顧客数=350,000円÷CPO3,500円=100人

毎月獲得した新規顧客の累計利益は、次の図のようにクロスで累積していくことになります。

事業全体の利益推移

このように、利益の積み上がりの採算を立て、事業全体の利益をシュミレーションしていきます。

まとめ

以上のように、D2C通販はCPOとLTVの数値の積み重ねによって、収益のシュミレーションを行なっていきます。
まずは、採算のシュミレーションを行い、そこから商品原価や販管費を加味した収支計画を立てていきます。
CPOやLTVは取り扱う商材や、購買方式によって差が出るため一律の目標数値はありませんが、自社でPDCAを繰り返して理想値を発見できるようにしましょう。

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